赤い竜 (ウェールズの伝承)
赤い竜(あかいりゅう)、ウェールズ語でア・ドライグ・ゴッホ(Y Ddraig Goch, IPA:[? ðrai? ?ox])は、ウェールズの象徴たる竜のことであり、ウェルシュ・ドラゴン(Welsh Dragon)とも呼ばれる。ウェールズの国旗にも描かれている。ここではケルト伝承とウェールズ国にとっての竜とは何かを取り扱う。
大地ができた頃、地中には地震を起こし災厄を招く黒い竜がおり、それを水の神である赤い竜が倒してこの地に平和をもたらしたという、ケルト伝承に由来する。
もうひとつの由来は、西暦2世紀に小アジアで大勝利を得たローマ軍がパルティアやダキア人の使っていた蛇のような軍旗(ローマ人はこれをドラコ(draco)と呼んだ)を知り、それを持ち帰ったものとされる。ローマ皇帝トラヤヌスはこれをローマ軍旗として棹の先に付けることを命じた。主に小隊に使用されたという。ただし、当初のローマ軍旗は紫のドラゴンであったともされる。ローマ軍がこのドラゴンをローマの属州であったブリテン島にもたらした。西暦5世紀初頭、ローマ軍がブリテン島から撤退して以降、ブリトン人がこれを軍旗として使用したことからケルトのドラゴン、すなわち国の象徴として用いられた。
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ローマ軍撤退によって生じた軍事力不在のブリテン島にサクソン人やアングル人が渡来した。そこでブリトン人とサクソン人の戦いが始まる。赤い竜はウェールズの守り神、白い竜はサクソン人やアングル人の守り神であったという。これは両者の民族の象徴がぶつかり合った時代の伝承である。
伝承
ルード王は恐るべき唸り声が昼も夜も鳴り響く原因つきとめるべく、弟のレヴェリスにたずねた。レヴェリスは恐ろしい声の正体はブリテンへとやってきたゲルマン民族の守護神たる白い竜と戦うため大地の守護神である赤竜が地中から舞い上がるための雄たけびだと告げた。ブリテン人の守護神である赤竜は退治できないため、ルード王は2匹のドラゴンを封印することを画策した。ブリテン島の東西南北の中心地に穴を掘り、そこに蜂蜜酒を大量に注ぎその上に巨大な網をかぶせるという策略であった。 やがて白竜がブリテンの大地に降り立つと赤竜が大地から蘇り、上空で凌ぎを削った。2匹のドラゴンは大きな穴を見つけると互いにそこに落とそうと絡み、落ちていった。ドラゴン達は蜂蜜酒の中で争ったがやがて酒に酔い、深き眠りについた。ルード王はこれを見て絹で2匹を覆い、さらに石で出来た箱に閉じ込め、地中深くに封印した。こうして守護神たる竜は2匹とも封印されることとなったのである。竜の復活とは戦乱が近づいていることをも意味する。全部いいことばかりではないのである。こうして封印することによって戦乱をも一旦は収まることとなったという。
戦乱の予言、そして守護神たる竜の封印が破られる時
ブリトンの大君主ヴォーティガーン(Vortigern)はサクソン人とともに戦うため堅固な塔を建設しようとした。ところが土台を造る段階になって、地面の下にある何かが建設を邪魔しているのを知った。そこで、王はその原因を突き止めることの出来る者を募った。すると、夢魔を父に持つ少年魔術師マーリンが現れ、地底で戦う2匹の竜のためだと告げた。ヴォーティガーンは半信半疑のまま塔の下を掘らせてみると、大きな泉が出てきた。王は「泉の下には何があるのか」と聞いたところ、マーリンは、「知りたければ泉の水を吸い上げてみるが良い」といった。水を吸い上げてみると、現れたのは大きな2つの石の箱だった。王が「石の箱には何が入っているのか」と訊ねた。マーリンは「知りたければ開けてみるがよい」と進言した。箱を開けると、そこには確かに遠い神話時代に封印された伝説上の赤き竜と白き竜がいた。2匹は互いの姿を認めると再び戦いを始めた。驚いているヴォーティガンにマーリンは「赤い竜はブリトン人、白い竜はサクソン人。この争いはコーンウォールの猪が現れて白い竜を踏みつぶすまで終わらない。」と予言した。やがて、壮絶なる竜同士の戦いは赤竜が勝った。この予言は、コーンウォールの猪ことアーサー王がサクソン人を破るという形で成就されることとなる。
ペンドラゴン(竜王)伝承
その後、ヴォーティガーンはサクソン人とともに暴政を敷く。そのため大陸に逃れていた反乱軍が次々結成され、とうとうヴォーティガーンは討ち死した。ヴォーティガーンの死後、ブリタニアを治めていたアンブロシウス・アウレリアヌスも殺され、無政府状態となった。アウレリアヌスの弟ウーゼルは、サクソンとの戦いの最中で軍を率いていたが、その時、突然空に明るく輝く大きな星が現れた。その星はまるで燃える火の竜のようであった。光の尾を引き、その一つはガリアを指し、もう一つはアイリッシュ海を指していた。
「一体あの彗星は何を意味するのか」ウーゼルは魔術師マーリンを呼んで尋ねた。そこでマーリンは兄アウレリアヌスの死を告げ、悲しみにくれながらも、ブリトンの民がサクソンに勝たねばならぬこと、あの星の筋がウーゼルに生まれるという息子が立派な王になることを示していること、子孫は皆ブリタニアを治めていくだろうということを語った。
ウーゼルは兄の死を嘆きつつもサクソンに勝利した。新たなブリトンの王となったウーゼルは、火の竜の星を記念して2匹の黄金の竜を作り、「ウーゼル・ペンドラゴン」(Uther Pendragon:竜の王、竜の頭の意)と呼ばれるようになった。後にウーゼルの子アーサー王もアーサー・ペンドラゴンと名乗るようになる。
ドラゴン関係本などに記載されている「ドラゴン」の説明において、たいていは「西洋世界におけるドラゴンは邪悪とされる」とあるがウェールズでは土地も国民も「我々はレッド・ドラゴンである」としており、赤い竜は国や民族の象徴・化身であり、守護獣としての象徴である。キリスト教の中で生きているドラゴンといえる。またラグビーウェールズ代表は愛称は「レッド・ドラゴン」であり、強豪チームとして恐れられたこともあった。そのためウェールズは「ドラゴン=ハート(精神)の国」として有名である。
ウェールズ首都カーディフの市旗では竜が旗を持ち、その横にリーキが植えられている。
プランタジネット朝ヘンリー3世はドラゴン紋の旗をウエストミンスターのセント・ピーター教会に旗を寄進し、安置させたという。このときのドラゴン紋も赤い竜であったという。ヘンリー3世はウエストミンスター寺院を大改築したことでも知られている。 テューダー朝はウェールズの家系である。王朝の改組でウェールズ大公の傍流であるヘンリー7世は、自らの王権を正当化する為にアーサー王伝説と絡めつつ、ウェールズ大公家に繋がる血筋を最大限に利用したのであった。ゆえに、ロンドンのシティの紋章もテューダー朝の流れを汲む紋章である。ロンドンの竜とされた。赤竜はアーサー王の象徴でもあり、ウェールズだけの竜ではなく、英国の象徴の一部にもなったのである。
英国国旗について
英国国旗はそれぞれ連合王国の象徴の国旗を入れた国旗になっているが「赤い竜」だけは入っていない。これはイングランドがすでにウェールズを併合していたためである。詳しくは「イギリスの国旗」を参照していただきたい。ウェールズの旗が現在の形になったのは1950年代からであり、実は新しいものである。
黙示録の赤竜との違い
黙示録の「赤い竜」(Great red dragon that old serpent, called the Devil, and Satan)は7つの頭と10の角、頭に7つの冠を載せていると書かれており、ウェールズの国旗の竜には角も冠もない。この竜はエデンの園でイブをそそのかしたサタンの化身であって、ウェールズのウェルシュ・ドラゴンとは何も関係が無い。